加賀屋に泊まる


石川県七尾市和倉温泉にある「加賀屋」に泊まった。
「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」に30年連続で1位として認定されていて、
テレビや雑誌で「おもてなしの宿」として有名で一度は泊まってみたいと思っていた。

しかし、あまりにも有名になり過ぎたからか、ネットの口コミを読むと、
良いことばかりではなく悪いことも書かれているサイトがあり、
期待し過ぎるといけないと気持ちを抑えながら向かった。

が、結論から書くと、おもてなしが細かい所にまで行き届いていて、
さすがだと感心することばかりで、気持ち良く過ごすことができた。


京都から車で行ったのだが、予定チェックインの時刻より大幅に早く着いてしまった。
大勢の仲居さんが両側にずらっと並んでお出迎えする様子をテレビで見たことがあり、
あぁいうのは大仰で照れくさいなぁ、どんな顔して通ればいいんだろうと思っていた。

ところが、玄関前には誰も居ない。 あれ?誰も居ないなぁと期待外れの気持ちで、
どこに車を停めたら良いのだろう?と玄関前からは離れた場所で迷っていたら、
建物の中から我々の車を見つけたのだろう、3人の人が走って駆け寄ってきた。
1人は我々の荷物を持って先に行き、1人は車を運ぶと言うのでキーを預けて、
1人は我々を中へと導いて案内して下さった。


玄関の中では、これからお出迎えの時刻になる前のミーティングだろうか、
男性も女性も入り乱れての打ち合わせ中のように見受けられた。
仲居さん達が外で整列する前に我々は早くに着き過ぎたのだ。
早くに着き過ぎた我々を外で並んで出迎えることができず、
このような状態で皆さんから一斉に「いらっしゃいませ」と迎えられた。


これは、約1時間後に玄関に出たところで見かけた仲居さん達の整列。
写真右側手前にも並んでいる仲居さん達が見える。
この後、外にも並んでお出迎えしているところも見かけた。


部屋の玄関を入ると、2畳の板間と2畳の畳の前室があり、
海に面した12.5畳の本間、広縁、寝室の3部屋もあった。
寝室は、「畳にお布団を敷く方をお好みならそのようにします」
と言われたが、布団を敷くためには座敷机を片付けなければならないし、
朝食の前には布団を片付けなければならないから朝食の前に埃もたつし、
寝室のベッドで寝る方が良いと答えた。

部屋に着くとすぐにお菓子とお抹茶が運ばれてきて、その後でお煎茶も来た。

浴衣は部屋付きの仲居さんが運んできた。
我々は小柄で小さいサイズの浴衣でしょうか?と尋ねたので分ったことだが、
部屋に案内した仲居が客の背丈を見て、部屋付きの仲居に伝えるのだそうだ。
だから、黙って持ってきてくれる浴衣は客のサイズに合っている訳だ。

最初は適当なサイズの浴衣を置いていて、客の背丈を見て取り替えてくれる宿はある。
客の背丈の大小を意識させることなく黙ってサイズの合う浴衣を用意する心遣いはさすがだ。

なお、丹前は1枚だが浴衣は2枚用意されていた。
「汗をかいたらお着替え下さい」とのことだったが、
夜寝てシワになった浴衣のままで朝風呂に行くのは見苦しいから、
新しいパリッとした浴衣に着替えて行けるのはありがたい心遣いだ。

も一つ、浴衣の帯も2本用意されていた。
1本はお風呂へ行くなどの部屋から出る外出用に芯の入った丈夫なもの。
その帯では締まりすぎてきついので、1本は寝る時の楽なゆるい帯。
2本の帯を使い分けるようにとの心遣いもありがたい。


しかし、何よりも驚いたのは、夫の古希の祝いをしてもらったことだ。
宿帳に書いた夫の年齢を見て、古希のお祝いをさせていただいて構いませんか?
と了解をとった上で、古希祝の飾りや紫色のちゃんちゃんこや帽子が運ばれてきた。
加賀屋写真部のプロのカメラマンが来られて写真を撮って下さり、
このような立派な台紙に入った記念写真をいただいた。


もっと驚いたのは、女将さんからのお祝いだと伊勢えびの刺身も届けられた。
支配人さんも挨拶に来られ、女将さんの名前でお祝いのコップもいただいた。
思ってもいなかったこのような至れり尽くせりの心遣いは初めての経験だ。

殻に入った生ウニや干くちこ(ナマコの卵巣)などの珍味も惜しげもなく並び、
輪島塗や九谷焼の美しいお皿に盛られた食事も満足なものだった。

また、最初に生ビールと冷酒を一緒に頼んだにもかかわらず、
ビールがなくなりそうになった頃合を見計らって次にお酒を持ってきた。
お酒を最初から持ってくるのではなく、そのタイミングの良さには感心した。


左は、お相撲さん用の座布団かと見間違う特大の座布団が2枚敷かれた座椅子。
殿様気分でお座り下さいとでもいうのだろうか、座り心地は確かに良かった。

右は、右側の本間の座椅子からも左側の広縁の椅子に座っても見られるようにと
テレビを回せるようになっている心遣いも嬉しい。
テレビは寝室にももう一台置かれていて、ベッドからも見られるようになっていた。


洋風ホテルの洗面所とトイレが同室にあるのはいただけないなぁと思っているので、
加賀屋では洗面所とトイレが別室だったのも嬉しい。
更にこの洗面所、持参の化粧袋を置ける木製の棚があるのが良かった。
洗面台に置くと水がかかって洗面袋が濡れるので、
いつも化粧袋の置き場所に苦心するからである。

温泉の風呂場では脱いだスリッパを片付けてくれる人が居て、
帰る時にはサッとスリッパを出してくれた。
「洗い場はあちら、バスタオルはその前に置いてあります」
などと細かく案内してくれる人も居た。

朝になると部屋に地方紙の新聞1紙が入っていた。
ところが、私は朝風呂へ行っていて部屋に居なかったのだが、
朝食の準備に仲居さんが部屋に入ってきた時に夫はその新聞を読んでいたそうだ。
地方のことが書かれているこの地方紙はおもしろいですねというようなことを話したそうだ。
すると、次に入ってきた時には、更に全国版地方版の2紙を持ってきたそうだ。
この人は新聞に興味があるのだと判断したのだろう、と夫が感心していた。

ところで、加賀屋の館内にはあちこちに加賀友禅や輪島塗や九谷焼などの見事な作品の数々があり、
まるで美術館のようでもあり、時間が決っているが、番頭さんが案内して説明して下さる。
早くに着き過ぎたので、夕食の前にお風呂に入るその前にその館内ツアーに参加してみた。
約40分かけて見せてもらった作品は数多くてとても紹介しきれないのでほんの数点だけを。


吹き抜けにある加賀友禅の「四季の花」。
エレベーターに乗るとこの見事な加賀友禅を見ながら上がることになる。
1階から12階まで各階には描かれたその花の名前が付けられていて、
各階の廊下にはその花の絵の絨緞が敷かれている。


12階のエレベーター前にある輪島塗の「寿松」。
松の1本1本が細かく描かれていて、小さな松ぼっくりが可愛い。


1階ラウンジ「飛天」の壁を飾る輪島塗の「天女の舞」。
全長40mの大作で作者の角偉三郎氏はこの作品を最後に器の世界へ入っていったとか。


1階フロントにある輪島塗の「瑞鳥の図」。
フロントでのチェックインからこのような立派な美術品に迎えられる。


さて、このような「おもてなしの宿」のこと、やはりありました。
天皇・皇后両陛下、皇太子殿下・雅子妃殿下、秋篠宮殿下・紀子妃殿下、紀宮様が
加賀屋にお泊りになられた時の写真が飾ってあった。

天皇ご一家が泊まられるのは、「浜離宮」という特別階の最上階だが、
我々が泊まった「渚亭」の最上階12階にも昭和天皇が泊まられた部屋があった。
「昭和天皇陛下ご定泊 御座所」「迎賓室 松柏」と書かれていて、
我々の部屋は何とその隣の隣だった。

別に、隣の隣は迎賓室でも何でもなく普通の部屋でありますが…。


能登半島ドライブ旅行へ続く



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