ごまかしの手口

トルコはイスタンブールでのタクシー運転手のごまかしの手口の紹介。

先ず、今回は我々2人だけでなく、夫の仕事仲間と一緒だった。
モスク近くの広場からホテルまで2台のタクシーに分乗した。
乗る前にホテル名を告げて、大体いくら位かかるかと尋ねた。
車にはちゃんと料金の出るメーターがあることも確認した。

我々のタクシーの運ちゃんは、気の良さそうな大変陽気な人で、
ハラハラドキドキのサーカスもどきの運転を披露しながら、
片言の英語でおもしろおかしく、しゃべり詰めだった。
さて、目的のホテルが近づいた時、何やら理由を述べて、
玄関先でなく少し手前で止めてもよいかと言った。

車が止まって、助手席に乗ったI氏が16,000,000リラを払おうとした。
20,000,000リラ札を出して4,000,000リラのおつりをもらえばよい。
運転手が何やら言って、I氏は財布の中を見ながら手間取っているので、
後部座席から夫がさっと20,000,000紙幣を出して運転手に渡した。
ところが運転手は何やら言いながら、それをすぐに夫に返して、
I氏にもう1,000,000出せば5,000,000を戻すと言った。
なるほど、計算は合っている。
I氏は1,000,000紙幣を出して5,000,000のおつりをもらった。
運転手は陽気に「トルコを楽しんでくれ」とか何とか言いながら、
2台のタクシーは賑やかに去っていった。

さてさて、あれ、I氏が何やら浮かぬ顔で一生懸命考えている。
はっきりしない顔をして我々夫婦に告白した。
「もしかしたら、やられたかもしれない」と。
「一度出した20,000,000札を取られて、もう一度20,000,000札を出したようだ」と。
「でもはっきりしない。気の良い運転手だった。私の思い違いかもしれない」と。
「財布の中にいくらあったか憶えていないんですか?」と私。
「そんなこといちいち憶えていませんよ!」と彼。
I氏はその後も思い出そうとはっきりしない事実を考え込んでいるので、
私は夫に小声でI氏の損害の半分を我々も持とうと提案した。

さて、もう一台のタクシーに乗った3人も何やら3人でごそごそやっている。
どうしたのか?と近づいたら、その内の1人が「どうもおかしい」と言う。
「はっきりしないが、どうもごまかされたような気がする」と。
それを聞いて、やおらI氏はすっきりした顔で、やられたことを確信した。

話をつき合わせると、2台のタクシーの手口は同じだった。
一度出した20,000,000札はサッと手際よく取っておいて、
気をそらすために何やら賑やかに言いながら、もう一度出させる。
「1,000,000出せば5,000,000を戻す」というおつりの出し方で気を引く。
トルコ語と下手な片言の英語でしゃべるので、こちらは気を取られてしまう。

さてさて、みんながやられて心配になった夫。
財布を調べてみて、「あれっ! 250,000札なんて持ってなかったぞ」
その日の朝両替したばかりの夫は、初めてのトルコの紙幣を確認したから、
250,000は約25円で、そんな小額紙幣を持っていなかったことを知っていた。
20,000,000札を出して戻された時、250,000札を戻されていたのだ!
2000円出して25円を戻された訳…。トホホ。
夫もやられたことを知って、先のI氏は途端に見事だ見事だと感心している。

そこではたと気が付いた。
ホテルの玄関前に着けないで手前で止めたのには意味があったのだ。
ホテルマンに顔を見られたら都合が悪い悪徳ドライバーだったのだ!
ホテルマンの待つ玄関前にはよう着けなかったのだ。

はたまた気が付いた。
「トルコは初めてか?」とか「いつ着いたか?」とかしきりに聞いていた。
「自分は昨日着いたが後ろの夫婦(我々)は今朝着いたばかりだ」とか
問われるままに助手席のI氏は答えていた。
ハハ〜ン、我々がトルコは初めてで着いたばっかりだということ、
0がいっぱいのトルコの紙幣に慣れていないことを確認していたのだ。

これにはまだ続きがある。
後でいろいろな人に我々が乗った距離でどのくらいかかるかを聞いた。
もちろん親切なタクシー運転手も居る。
その後何度か乗ったタクシーの運転手にもそれとなく聞いた。
その結果分かったことは、我々は3倍ものお金を払っていた!
あの距離なら16,000,000リラの3分の1で済むということだった。
何とメーターまで細工されていたのだ!

モスクの広場でたむろしていたタクシーは仲間だったのだ。
たとえごまかしに成功しなくても3倍の料金でももうかっていたはずだ。
つまり、タクシー料金の上乗せ分が2台で2,000円ほど。
その上紙幣のごまかしで20,000,000づつ(合計4,000円)のもうけをねらったのに、
後部座席から夫が差し出した20,000,000札は計算外のもうけだったはずだ。
80,000,000リラ(約8,000円)もの思わぬ大もうけで、
あの2人の運ちゃんは、ビールで乾杯して大笑いしたことだろう。
思いがけずうまくいって、鴨がネギをしょってきたと思ったことだろう。

ところで、この運転手は英語で話しかけてきた。
ガイドブックに「日本語で話しかけてくる人には注意」と書かれていたが、
「英語で話しかけてくる人に注意」とは書かれていなかったよ〜ん。

2台のタクシーに分乗するから後で分かるのに、1台がわざと回り道をして、
1台の方が高いお金を払わされたことも2回あった。
もっとも、高いと言っても100円ほどの損害だったから寛容の心で許した。

も一つ、船の切符売り場でのこと。
窓口に行列をして買うので、夫が買いに行き、私は離れた所で待った。
切符を買った後、夫が財布を眺めながらいつまでももたもたしているので、
何をやっているのか?どうしたのか?と、近づいて行った。
「タクシーでやられた250,000紙幣はお前が持っているんだったかな?」と言う。
やられた記念に持ち帰ろうと私が保管していたので、そう答えた。
「やっぱり! 財布に又250,000紙幣がある!」と夫。
同じ手口だ! 窓口で文句を言ったら即座に20,000,000札を返してくれた。
夫の後何人もの人が切符を買って行った後なのに、何の確認もせず即座にだ!
窓口の人間はごまかしたことを分かっているのだ。

さてさて、その時も一緒だった仲間がやはり何やらもたもたしている。
聞けば、やはりおつりをごまかされたらしい。
夫が抗議して取り返したことを話したら彼も取り返しに行った。
やはり正しいおつりを即座に返してくれたそうだ。
公共の施設でそんなことをするとは思ってもいなかったので油断があった。

以上、これらのことは、6人5人という団体で行動していた時にやられた。
私の他にも1人奥さんが来ていて、夫の仕事中私は彼女と一緒に行動した。
女性2人だけの時は、路面電車や地下鉄で移動したが、タクシーにも乗った。
が、悪徳タクシーではなかったし、いろいろ親切に教えてくれる人に出会った。
どうも男性陣がねらわれている?
殿方、イスタンブールではお気をつけあそばせ。


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