ふじ丸で航く小笠原クルーズ


小笠原諸島には飛行場がないので、小笠原へ行くには船でしか行けない。
東京からは小笠原海運の定期船「おがさわら丸」で25時間で行く方法があるが、
どうせ長時間船に乗るのなら大きな船の方が良いとクルーズ船で行くことにした。
神戸港からは、鳥島を一周したり、孀婦岩(そうふいわ)を見せてくれるために、
行きは遠回りをして行ったので、何と43時間も船に乗りっぱなし。
帰りは一路神戸港を目指して、それでも39時間の船の旅だった。


ふじ丸。総トン数23,235トン。船客定員163室600名だが客は300名位。
働いている人は136名で、客室係はフィリピン人が多かった。
上手な日本語ではあるが何となく違うので、すぐに分った。
ニコニコと一生懸命サービスしてくれる姿勢は快適だった。


タイタニック号の悲劇では、船は沈まないとの神話が信じられていて、
人数分のボートが用意されてなくて、高額の部屋の客から順に避難して、
安い部屋の客が乗れるボートがなかった、との教訓から、それ以後は、
ボートに乗る順番はいかなる客も差別しないとの規則ができた、と聞く。


午後3時、さぁ、いよいよ出航です。
用意されていたシャンパンを飲み、用意されていたテープを手に持ち、
船から色とりどりのテープを思い思いに投げて、しばしの別れをする。


背景に山を、前を海に囲まれた神戸の町がだんだんと小さくなっていった。
しばらく滞在した神戸から離れるのなら寂しい感傷に浸るところだが、
これから行くまだ見ぬ小笠原への期待から、楽しみな思いが大きかった。


午後3時半からはオリエンテーションといろいろな説明会があり、
その後は避難訓練。非常ベルが鳴り、部屋に戻って救命胴衣を着用。
通路へ出て、誘導されて自分が乗るボートの場所へ集合して説明を受ける。


長時間の船の旅だが、退屈することはこれっぽっちもない。
もちろん、自分の部屋やサロンや図書室やデッキで自由に過ごしても良いし、
毎日何かしらのイベントが行われたり数々のカルチャー教室も開かれていて、
私が参加した中では、マジックショーと落語と映画がおもしろかった。
フィットネスセンターには卓球台もあったので夫と2人で楽しんだ。


操舵室の見学というのもあり、
大勢の客がぞろぞろと見て回って大丈夫かと思ったら、
この時間帯は「オートパイロット」となっていた。
たくさんの船の間をかき分けて港へ入るような時は、
もちろん、人の手による操舵が行われるそうだが、
外海でのほとんどの時間帯は自動操舵になっているようだ。


アフタヌーンティーをいただく時には、ピアノとバイオリンの演奏もあり、
朝昼晩とご馳走を食べて、お茶をいただいていると、まさに非日常の日常だ。

小笠原現地ガイドさんによる、小笠原の自然、植物、その他についての「小笠原講演」や、
ふじ丸の一等航海士さんによる「航海講座」や船長さんによる「海の四方山話」などなど、
興味深い話もたくさん聞くことができた。


これはビュッフェスタイルのデッキディナーの様子。
ダイニングルームでの本格ディナーも良いが、こちらは開放的で良かった。
昔、バンクーバーからアラスカへ乗った豪華客船では、夜の服装は日によって、
今日はフォーマル、今日はセミフォーマル、今日はカジュアルと決まっていた。
今回のふじ丸では、どの日もすべて「カジュアル」だったのが気楽だった。
ただし、カジュアルといっても、あくまでも「よそいき」で普段着ではない、
と、「クルーズのしおり」には服装の目安が書かれてあった。

ウェルカムディナーとフェアウェルディナーはフランス料理のフルコース。
その他の日は日本料理だったのが年寄りの我々には歓迎だった。
朝食は和食でも洋食でも好きな方を選べるのが良かった。


アホウドリの繁殖地である鳥島を船は一周して見せてくれた。
島の周りをアホウドリが飛び交っていたが、よく撮れなかった。


鳥島は活発な活動を続けている活火山で、
火口からは僅かだが水蒸気が噴出していた。
火口壁の一部が白く見える部分の右の方で
水蒸気が噴出しているのが分るだろうか。


太平洋の真ん中にポツンと立つ高さ約100mの孀婦岩(そうふいわ)。
東京の南約650km、鳥島の南約75kmに位置し、海上に突然現れる。
水深2,500m以上もの海底からそびえ立つ海山の頂上部だそうで、
海鳥たちのコロニーにもなっているとか。

なお、長時間を船で航海すると、海の色が変わるのがおもしろい。
黒潮を横切る時には大きな船でも少し揺れるとの放送があった。
黒潮を横切るのかと注意して見てみると、確かに海の色が黒く見えた。
それが、その後は薄い青色へと変わっていった。


さて、4月28日午後3時に神戸港を出航して、30日午前10時にやっと父島に到着。


ふじ丸は大きいので二見港・青灯台岸壁に接岸できない。
そこで、港から少し離れた二見湾にブイ係留されるのだ。
よく見るとブイの上に何人か人が居て、漁船も何台か回っている。
船でも何人もの人が忙しく働いていて船客はそれを珍しげに眺めている


船会社の旗が風になびく船尾と日本国旗がはためく船首から
ロープが張られて、船首と船尾の2ヶ所をブイ係留された。


船から降ろされた階段を下りて、横付けされた漁船に乗って父島へ渡る。
この漁船のことを「通船」と言うが、青灯台岸壁へは5分程で着く。
この地元漁船がふじ丸と岸壁の間を何度も往復して運んでくれる。
青灯台岸壁発の最終通船は夕方5時なので、それまでには船に戻る。

次は、長い船の旅も終わり、いよいよ小笠原諸島の父島へ上陸です。


父島上陸 小笠原固有種の自然聖域散策へ続く



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